2021年5月18日不審者侵入や放火、不法投棄…全国的に深刻化する空き家問題

高齢化、人口減少…全国で問題になっている空き家問題。大阪経済法科大学経済学部教授の米山秀隆氏の書籍『限界マンション 次に来る空き家問題』(日本経済新聞出版社)より一部を抜粋・編集し、空き家が増えることの問題点について解説します。

全国の空き家率は過去最高を記録…13.6%の衝撃

5年に1度行われている総務省「住宅・土地統計調査」によれば、2018年の全国の空き家数は848万戸、空き家率は13.6%と過去最高を記録した。 空き家には、「売却用」「賃貸用」「二次的住宅(別荘等)」「その他」の4つの類型がある。このうち特に問題となるのは、空き家になったにもかかわらず、買い手や借り手を募集しているわけではなく、そのまま置かれている状態の「その他」の空き家である。たとえば、親の死亡後、そのままにしておくケースがこれに当たる。

「その他」の空き家の大半は木造戸建てである。そのほか、募集を止めた賃貸住宅や分譲マンションで空室化したものなど共同住宅の空き家も含まれる。住まなくても維持管理を行っていれば問題はないが、放置期間が長引くと倒壊したり、不審者侵入や放火、不法投棄の危険性が増すなど周囲に悪影響を及ぼす問題空き家となる。 2015年5月に全面施行された空家法では、「倒壊等著しく保安上危険」「著しく衛生上有害」「著しく景観を損なっている」などの状態の空き家を「特定空家」と指定し、立入調査のほか、指導、勧告、命令、代執行などの措置をとることが可能になる。腐朽・破損ありのもののうち特に状態の悪いものが、これに該当する可能性が高い。 一方、住宅全体に占める「その他」の空き家の割合は13.6%と、これも5年前(5.3%)に比べ上昇した。都道府県別では、山梨(21.3%)、和歌山(20.3%)など過疎で悩む県が上位となっている。これに対し都市部では低く、東京は10.6%である。 「その他」の空き家率は、高齢化率との相関が高く、高齢化率の高い都道府県ほど、「その他」の空き家率が高くなっている。今後、高齢化率が上昇していくにつれ、「その他」の空き家率も上昇していくことが予想される。 都市部では「その他」の空き家率は低いが、低いから問題が少ないというわけではない。都市部では「その他」の空き家率は低くても、「その他」の空き家の数は多い。「その他」の空き家の数が一番多いのは東京で、次いで大阪となっている。 また、都市部では住宅が密集しているため、問題空き家が1軒でもあると近隣への悪影響が大きいという問題がある。

「問題空き家」が増えている背景…空き家率の恐ろしさ

問題空き家となる予備軍が増加している背景には、(1)人口減少、(2)核家族化が進み、親世代の空き家を子どもが引き継がない、(3)売却・賃貸化が望ましいが、質や立地面で問題のある物件は市場性が乏しい、(4)売却・賃貸化できない場合、撤去されるべきだが、更地にすると土地に対する固定資産税が最大6分の1に軽減されている特例(住宅用地特例)が解除されるため、そのまま放置しておいたほうが有利、などがある。 ・改善は見られたが潜在的な問題は大きい 東京について見ると、2018年の空き家率は10.6%と5年前の調査から、微減となった。 都市部では賃貸物件の供給がもともと多く、最近は相続対策で物件供給がまた増えたが、新築は満室になる一方で、古い物件の空室が増えていることを示している。借り手を募集しているうちは一定の管理を行っているため問題はないが、老朽化して募集を止めると、そうした賃貸物件は「その他」の空き家に分類されることになる。 管理が放棄されると、一戸建てと同様、近隣に悪影響を及ぼす可能性が高まる。大都市では賃貸用の空き家が将来的に問題をもたらす可能性が潜在的に高いことを示している。三大都市圏とそれ以外(地方圏)の空き家の構成比を見ると、賃貸用の割合が地方圏では4.5%であるが、三大都市圏では8.7%に達する。 一方、都区部と市町村部で比較してみると、空き家率、「その他」の空き家率とも都区部のほうが高くなっている。2013年の都区部の空き家率は1.2%に対し、市町村部では10.9%、「その他」の空き家率は都区部2.2%に対し、市町村部は1.9%である。 これは都区部において、山手線外周部を中心に木造住宅密集地域が点在していることが影響している。ただし、都区部の空き家率は低下したが、市町村部の空き家率は逆に上昇しており、近年は立地面で条件の悪い郊外の空き家が増えていることを示している。 東京にみられるように大都市圏における空き家問題で特徴的な点は、古くからの住宅地で木造住宅が密集している地域などで除却・更新が進んでいないという点、また、空き家に占める賃貸住宅の割合が高く、老朽化して管理放棄された場合の潜在的な問題が大きいことなどが挙げられる。 さらに、大都市においては、分譲マンションが多く供給されており、それが老朽化し空室が多くなり、管理放棄された場合の潜在的な問題が大きいという点も挙げられる。

米山 秀隆 大阪経済法科大学経済学部教授

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